長野県の北西部に北安曇郡白馬村があります。

冬は栂池高原、八方尾根などのスキー場が賑わい、夏は白馬みそら野などに代表される高原リゾートと白馬岳などへの登山基地として有名で、信州を代表するリゾート地のひとつです。

地理的にいうと、糸魚川静岡構造線を流れる姫川の支流で、白馬連峰に端を発する松川や平川が形成する扇状地にあたり、比較的平坦な盆地(白馬盆地)地形が広がっています。
松川の形成する扇状地「みそら野」、平川の形成する扇状地「八方和田野」は、いずれもペンションやホテルなどが数多く立地する高原リゾート地となっています。


新潟県糸魚川に河口をもつ姫川に沿って、JR大糸線と国道148号線が山間を走っていますが、明治大正期までは千国(ちくに)街道が通っていました。
糸魚川で生産される塩を信州に運ぶ街道でもあったため「塩の道」とよばれていました。

白馬リゾートは姫川の左岸(西側)の広い高原地帯にありますが、右岸(東側)には昔ながらの山間部落が点在してます。
そのひとつに、重要伝統建造物群保存地区に選定された青鬼集落があります。



この夏、白馬を旅行した時、さっそく青鬼集落に行ってみました。

国道148号線から交通標識に従い脇道に入ると、目の前に現れた光景に驚かされました。
姫川は断崖の底を流れ、大糸線は断崖の淵に張り付くように走っていたのです。
緩やかな扇状地形の広がるのどかな白馬盆地の風景からは想像もつかない、急峻で荒々しい渓谷がそこにはありました。


姫川の渓谷を渡る大糸線鉄橋  右岸の急斜面を登ると青鬼集落がある



また、青鬼集落への山峡を縫うように通る道路は、今でこそアスファルト舗装の山道ですが、かつては人一人が通るのにやっとの山道だったのではないかと思います。

アクセルを一杯にふかして、ハンドルを左右に忙しなく切りながら、やっと辿り着いたのが青鬼集落でした。
重要伝統建造物群保存地区に選定されたため、訪れる人が引きもきらないようで、集落の入口には観光客用の駐車場が用意されていました。

集落には江戸後期から明治期に建てられた14棟の茅葺の主屋と土蔵などによって構成され、主屋は大型で質が高く、改造が少ないのが特徴です。
平成12年に重要伝統的建造物保存地区に選定されています。


青鬼集落の町並み



江戸時代には善光寺や戸隠へ通じる道が通り、外部との頻繁な交流があった集落として知られていた、と集落の説明板には記載されています。
白馬から長野や戸隠へは、国道406号線を通り柄山(標高1338m)を南へ迂回して、裾花川沿いの鬼無里(きなさ)村に出なければなりませんので、青鬼集落の道が善光寺や戸隠に通じていれば近道にはなるはずです。
しかし、青鬼集落から青鬼沢を抜ける道は、地形図はおろかハイキングコースにも記載されていませんし、急峻な地形は信じることは難しいです。
善光寺や戸隠への頻繁な交通があったとはとても思えません。

集落北側の山腹にある青鬼神社には、江戸時代中期に建てられた社殿が残っていて、集落東側には石垣によって築かれた約200枚の棚田が広がり、江戸時代末期に岩盤を削って造られた長さ約3kmの青鬼堰(用水路)が現存しています。


左:青鬼神社の社殿  右:棚田の石垣


山間部に広がる棚田



白馬から国道148号線を8kmほど遡ると、山容が迫り右手にサンアルピナのスキー場が見えてきますが、ここが白馬盆地の南端になり、姫川の源流にあたる場所です。 この先の佐野坂トンネルを越えると視界が開け、眼下に青木湖が現れます。

佐野坂は姫川流域と信濃川流域を分ける分水嶺にあたります。



青木湖から流れ出た農具川は、途中高瀬川に合流して南流をつづけ、穂高で犀川に合流して北流へと転じて、千曲川、信濃川となって日本海へと注いでいます。
青木湖は、糸魚川静岡構造線上にできた構造湖(地殻の断層運動によって発生した湖のこと)で、長野県で最も深い60m近い水深をもち、透明度の高いことで有名です。
周囲からの流入河川がないにも関わらず、一定の水位を保っているのは、湧水のおかげだといわれています。

青木湖の水面から標高差で約70m低い場所にあるのが姫川源流で、一帯に広がる親海湿原とよばれる湿原は湧水の宝庫です。
元々の水源は青木湖でしたが、過去の佐野坂の地すべりによって堰き止められ現在のようになったそうで、湿原の湧水は青木湖からの漏水であると考えられています。


左:姫川源流  右:湿原にたたずむ荒神社



湿原には正安年間(1300頃)に勧祀されたといわれる荒神社があり、湿原の湧水は古来から「荒神の清水」とよばれ、千国街道を行きかう旅人の喉を潤してきました。

 

 

使用地図
@1/25,000地形図「白馬町」「塩島」平成12年修測
A1/50,000地形図「大町」平成14年修測


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